いじめへの対処と予防の方法 歴37年教員の経験談

教師の仕事

 いじめが学校教育の大きな問題となって何十年も経っています。それなのに「子供が自殺。原因はいじめか?」というニュースがなくならないのはなぜでしょう。

 私はその理由は大きく2つあると考えています。1つは学校が多忙でいじめ対策が不十分だから、もう1つはいじめによる自殺を防ぐ有効な方法が確立されていないからだと思います。

 ではどうしたらいいのでしょうか。

ニーナ
ニーナ

いじめ自体をなくすことは不可能です。

けれど軽いいじめを早期に発見し、重大ないじめになる前に解決することは可能です。

その方法について私の考えを書きました。

いじめ対策は最優先

 まず大切なことは「どれだけ多忙でもいじめ対策は最優先にすべき」という考えを徹底することです。いじめが原因で自殺する子がいるのですから、いじめは子どもの生死に関わる問題です。

 子どもの命に関わることは教師の仕事として最優先にするべきことです。行事や研究で忙しくていじめ対策ができないと言うなら、行事や研究をやめていじめ対策をするべきです。

いじめは防げるのか

 いじめを防ぐ方法が確立できていないということについてですが、すべてのいじめを防ぐ方法はないと自覚した方がいいです。

 防ぐ方法がないなら諦めるしかないのか、と思った人がいるかもしれませんが、すべてのいじめを防ぐ必要はありません。防ぐ必要があるのは子どもが自殺に追い込まれたり、心の病に陥ったりするような重大ないじめです。

 人間の集団ならどこでも起こるような陰口やいさかいの類を防ぐことは不可能なので、そういったいじめはその都度指導していく、という気持ちで良いのです。重大ないじめを防ぐ方法はあると私は思っています。それを学校全体で取り組むことが大切だと思います。

いじめとは何か

 いじめとは何でしょう。

 わかっているようでわかっていない、「いじめ」の定義をはっきりさせましょう。いじめとは何かを明確に意識することで、いじめの早期発見につながります。

 私が考えるいじめの定義について書きます。

本人がいじめと感じたらいじめ

 2013年に「いじめ防止対策推進法」が施行されました。そこにいじめとは「対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」と書かれています。「本人がいじめと感じたらそれはいじめ」ということです。

 現場にいたときの感覚としても、この法令以降「本人がいじめと感じたらいじめ」はとても強調されるようになった気がします。

 でも調べてみると、それ以前の法令でもいじめに関する定義には「対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」の記述はありました。それが特に強調されるようになったことで、現場には良い影響と悪い影響があったと思います。

「本人がいじめと感じたらいじめ」という考え方の功罪

 良い影響は、子供や保護者が「いじめられています」と言ったら教師は動かなければならなくなったことです。「それはいじめではないですよ」と言って放置することはできなくなったのです。教師が放置して大きな事件だったと後から慌てることが避けられるようになりました。

 以前このブログで教師の仕事の優先順位を書きましたが、いじめの問題のように命に関わることや保護者、生徒から相談されたことは、最も優先順位の高いものです。すべての先生がいじめに対して優先的に動けるようになったことはとても良いことです。

 良くない影響は、いじめに対してことさら大袈裟な指導が増えたことです。大袈裟な指導とは何か、何がいけないかを含めて、具体的な指導についてもこれから書いていきます。まずはいじめの定義の話を続けます。

いじめの範囲は広すぎる

 いじめとは何かを考えるとき常々違和感を感じていました。それは「いじめの定義は広すぎないか?」ということです。

 中学生くらいの生徒が自殺するような事例では、いじめというより犯罪と言うべきことが行われています。それは暴力や恐喝であっていじめで片付けていいことではないです。

 逆に小学校の低学年くらいの子だと、隣の席の子に怒られたことを「〇ちゃんがいじめた」と表現します。これも本人が苦痛を感じているならいじめです。それもこれも同じようにいじめと表現することに違和感を感じたことがある人は、私だけではないと思います。

 暴力や恐喝は「暴力、恐喝」と言うべきで、「いじめで自殺」などと言うのは加害者の行為を軽く表現しているようで私は嫌です。

 「いじめで自殺」はおそらくマスコミ的にはインパクトを狙っているとか、短い言葉で表現したいといった理由だと思うので、テロップや見出しに使うのはしかたがないのかもしれません。しかし本文で説明するときは「いじめ」ではなく、「~という暴力」「~といった恐喝」と表現してほしいです。犯罪行為であることを正確に表すべきです。

 隣の席の子に怒られて「〇ちゃんがいじめた」と言うことと、暴力や恐喝を同じ「いじめ」という言葉で表すのは本当は避けるべきです。でも「本人がいじめと感じたらいじめ」という定義から考えるとどちらも「いじめ」に当てはまります。

 このことはいじめを考えるときに、いつも頭の隅に置いておきたいです。「いじめ」と言っても一つ一つの事例によって重大性には差があるのです。

犯罪といじめを区別することの重要さ

 いじめで自殺と聞くと「いじめくらいで死ななくても」と感じる人がいるかもしれません。しかし被害の内容を具体的に知れば、死にたくなるほど傷つき苦しむ気持ちが理解できると思います。

 被害に遭った子どもも「いじめられている」と思うと親にも相談しづらいでしょうが、犯罪被害に遭っていると自覚できれば相談しやすくなるはずです。

 学校の先生方はもちろん、いじめと言ってもその内容は様々だと理解しているでしょう。子どもたちにも「それはいじめではなく犯罪です」と教えてあげてください。

 世の中の人もその区別を認識してほしいです。犯罪に遭った子どもに対して「いじめくらいで」とは思わないはずです。

軽めのいじめへの対処

 軽めのいじめとはどのようないじめでしょう。

 「どんないじめもいじめはいじめだ!どんないじめも厳しく指導する!」と言う人がいるかもしれません。しかしいじめには様々な様相があり、指導のしかたによって効果も変わります。子どもを教育する専門家である教師はいじめを分析して指導を工夫するべきです。 

 今回取り上げる「いじめ」はいじめとしては最も軽いものとします。1人の加害生徒が1人の被害生徒に対して「キモ」「ウザい」と言ったり睨みつけたりといった嫌な態度を取る、といったレベルのことだとします。

基本的な意識

 このとき一番注意したいことは大袈裟にしないことだと私は思っています。大袈裟にしないというのは、必要以上にピリピリしないという意味です。

 相談してきた生徒の話は真剣に聞きますが、いきなり加害者とされた生徒を問い詰めるとか、学級全体に「こういうことがあるようです!」と説教を始めるとか、そういうことはしない、ということです。

 相談に来た生徒や保護者は深刻な思いでいますが、彼らの望みは「いじめるのをやめてほしい」それだけです。「二度とこういうことがないように厳しく指導してください!」と強く訴えてくることもあると思いますが、それにつられて「これは加害生徒を厳しく指導しないと納得してもらえないな」などと思ってはいけません。

 いじめられた側は厳しく指導してもらわないといじめが続くのではないかと不安に思ってそう言うだけです。実際は厳しく指導しない方が上手く解決できる場合がほとんどです。

 なぜそうなのかも含めて指導の手順を説明します。

指導手順1:被害生徒に話を聞く

 具体的に、いつ、どこで、何をされたのかを聞き、メモを取ります。どんな気持ちになったかということも聞き「それは辛かったね」とか「悔しかったんだね」と共感しながら、思いを吐き出させるようにします。

 事実がわかったら「Aさん(加害生徒)にやめるように先生から話すよ。いいね」と確認します。被害生徒は言わないでほしいと言うかもしれませんが、「先生に任せて。Aさんがやめなかったら先生は何度でもAさんに注意するから、一緒に頑張ろう」と説得し、納得するように仕向けます。

 ここで、被害生徒が「Aさんには言わないで」と言ったから加害生徒に指導をしなかった、ということをしては絶対にダメです。軽めのいじめは先生に言えば解決する、という実績を必ず作るという決意で臨みましょう。

指導手順2:加害生徒に話を聞き指導する

 加害生徒に直接聞くと正直に言わない可能性があるから周りの生徒にも聞いて証拠を固めた方が良い、と言われることもありますが、私は直接聞いた方が良いと思います。

 関係のない生徒を入れると指導がややこしくなります。私は怖い先生ではなかったので、加害生徒に直接聞いても警戒されずに大抵素直に話してくれました。もちろん聞き方を間違えないように気を遣いますが。

 加害生徒に話をするときのポイントは、その生徒の立場に立ちながら聞くことです。加害生徒より被害生徒の立場に立つべきじゃないですか?と思った人がいるかもしれませんが、被害生徒の望みは加害生徒がいじめをやめることですから、その目的のためです。

 教師がするべきことは加害生徒を悪と決めつけて糾弾することではなく、加害生徒自身がいじめをやめようと思うように仕向けることです。それを肝に銘じながら指導に当たりましょう。

 加害生徒の立場に立って聞く、というのはどうすることでしょう。

 加害生徒はその子なりの理由があっていじめた、もしくはいじめるつもりはなく行動したことが結果としていじめになったという前提で聞くことです。もしかすると本人はいじめるつもりがあったかもしれませんが、教師はそれに気付かないふりをして聞きましょう。その方が加害生徒自身が自分を振り返ることができます。

 「Bさん(被害生徒)が……(被害の内容)と言っているけど、そうなの?」と穏やかに聞きます。黙っていてもうなずいても「何でやったの?」と優しく聞きます。

 そうすると大抵Bさんに対する不満を話し始めるので「そう、それでBさんに腹が立ったんだね。でも……はしない方がいいね」と優しく言います。必要ならBさんへの不満についてアドバイスもします。「Bさんははきはき話すのが苦手だから優しくしてあげてほしいな」というように。

 Aが「わかりました」と言ってくれたら指導終了です。

 これが小さい子だったら「じゃあ、仲直りしようか」とBさんを連れてきて、Aを謝らせ、握手をさせるなどして「仲直りできたね。偉いね」と言うのでしょうが、中学生にはしません。

 謝らせられたことを罰だと感じてプライドを傷つけられ、Bを恨む気持ちが生まれてはいけません。「わかってくれてありがとう。あなたがわかってくれたことをBさんに伝えるから、もうしないでね」と最後にくぎを刺します。

指導手順3:被害生徒(保護者)に報告し、事後を見届ける

 加害生徒に指導したということ、もうしないと言ってくれたことを被害生徒に伝えます。そして必ず「何かあったらまた先生に言ってね」と言います。保護者にも電話をして指導したことを話し「何かあったらまた教えてください」と伝えます。

 その後も時々、嫌なことはないかと被害生徒に声をかけます。

 ちょっと緩い感じがすると思われるでしょうが、その方が良いのです。先生に言うと余計にいじめが酷くなる、ということが起こるのは、教師の指導が厳しすぎるからです。

 教師の指導が辛かったから被害生徒を恨んで報復するわけで、先生が自分の気持ちも理解してくれたと加害生徒が思えたら、被害生徒を恨む気持ちは起きません。

 加害生徒の親に報告することもしません。(加害を繰り返した場合は報告しますし、いじめの程度が酷い場合は報告しますが。)

 加害生徒に対しても機会を見つけて肯定的な声掛けができるといいです。仲間に嫌な態度を取る子というのは何かしらのコンプレックスがあったり精神的な不安定さがあったりする場合が多いですので。

まとめ

 指導の手順をまとめます。

 ①被害生徒からいじめの事実を聞き取り、加害生徒を指導することを了解してもらう。

 ②加害生徒を指導する。もうしない、という気持ちになるように穏やかに説得する。

 ③被害生徒と保護者に報告し、また同じようなことがあったら言うようにと話す。

 ④被害生徒と加害生徒の様子を気にかけ、声を掛ける。

 被害生徒に対しても加害生徒に対しても、思いやりの気持ちを持って穏やかに話すことが大事です。軽いいじめを解決することで「いじめがあっても先生に相談すれば解決する」という事実を作りましょう。

 「いじめがあったら先生に相談しよう」と子どもたちに思わせることができれば、大きいいじめも起きにくくなります。

いじめ予防(教師の心構え)

 軽いいじめに対する対処について書きました。では、もっと重いいじめが起きたらどうするか、という話も書くべきかと思います。

 しかしそれよりもまず、重いいじめが起きないようにする方法について書きます。そっちの方が絶対大事ですし、すべての学校ですぐにでも実践してほしいからです。

重大ないじめが起きないようにすることが大事

 軽いいじめは日常的に起こるものです。先にも述べたように軽いいじめは素早く対応すれば解決できます。

 しかし、重大ないじめになると対応は段違いに大変になります。重大ないじめも様々ですが「長期に渡っている」「多人数が関わっている」「内容が陰湿で重大」といったものになります。

 そうした重大ないじめが起きない学校にする方法を述べていきます。まずは主に先生の意識や考え方について書きます。 

軽いいじめを見逃さず、解決していく

 重大ないじめを起こさせないことは学校にとって最重要だと、先生方が意識しながら生徒を見守ることがまずは大切です。そして軽いいじめを見逃さずに解決していくことです。

 ただし前にも書きましたが、大袈裟にしてはダメです。加害生徒が納得して「やめよう」と思えることが大事ですし、「やめよう」と思ってくれたら解決なので優しく諭してください。

 「いじめを許さない!」「厳しく対処を!」という声に引きずられて、軽いいじめでも声を荒らげたり、学級の問題にしたり、加害生徒の親に即電話したりする担任がいます。そういう恐怖を与えると子供たちは自分たちの中で起きた問題を隠すようになります。

 管理職が「いじめにはきちんと対応しましょう」と言うことは、先生方に自覚を促すために良いことなのですが、管理職の中にも「きちんと対応」=「恐怖を与える対応」と考えている人がいるので気を付けてほしいです。

 先生たちが生徒を恐怖で統制しようとしてはいけません。温かい人間関係の中で学ばなければ、子供は他人への思いやりを本当の意味で理解することはできませんし、心が成長しません。

弱い生徒に対して優しく接する

 弱い生徒とは、仲間にバカにされたりイジられたり、苦手なことが目に付いたりしがちな生徒のことです。こうした子たちはいじめの対象になりやすいので、先生(=権威を持つ人)が優しく接することで、他の生徒に「ああいう子には優しくするものなのだな」と理解させます。

 ただ心が育っていない子は「先生はあいつを贔屓している」と思ったり、「あいつはこういうところがダメだから、先生はもっと厳しくしなよ」と文句を言ったりします。

 はっきり言ってそういうことを言う子もまた弱い子です。一見強く見えたりリーダー的であったりしても他人の欠点を許す寛容さがないのは弱い子だからです。弱い子なのでその子の話も「そうだねえ」と聞いてやりましょう。

 その上で「あの子は欠点があるから助けてあげたいと先生は思っているんだ」と話してあげてください。「あなたも助けてあげてくれると嬉しいな」と話しましょう。その子は先生に頼られていると感じて、弱い子を助ける自分になろうと思ってくれるようになります。

 そうしたらその子は弱い子から強い子に変わります。弱い子を助けられる強い子が増えるといじめは起きにくくなりますし、他の面でも(授業でも普段の生活でも行事でも)まとまりやすい前向きな学級になります。

まとめ

 いじめを予防するために教師が普段から心がけるべきことは2点です。

①軽いいじめを見逃さず、すぐに動いてすぐに解決する。

②集団の中で立場の弱い子どもに優しくする。

 教師がこのような姿を見せていると、子どもは教師を信頼します。そして気になったことや悩みを気軽に相談するようになります。子どもが教師を信頼することは、いじめの予防には不可欠なことです。日頃から心がけましょう。

いじめ予防(生徒への啓蒙)

 次は生徒への啓蒙ということで、子どもたちにいじめ予防の考えを共有することについて書きます。

 いじめを予防するには、先生が軽いいじめを見逃さずに解決すること、立場の弱い子に対して温かく接することが大切だと「いじめ予防(教師の心構え)」で書きました。

 ここからは生徒をどう指導していくかを書きます。

いじめは悪いことだという意識を持たせる

 いじめは悪いことだ、なんて子どもはみんな知っています。それなのになぜいじめは起きるのでしょう。

 理由は「本当に悪いと実感していない」もしくは「どういう行為がいじめなのかよくわかっていない」からです。だから「いじめは本当に悪い」ということと「いじめかもしれないと思ったときどうしたら良いか」を教える必要があります。

 年度の早い時期から「いじめは良くない」という意識を高める指導を繰り返し行いましょう。

 「そんなにいじめのことばかりできない」と思われるかもしれませんが、学級にとって仲間同士が思いやり、仲良く楽しく過ごせるクラスを作ることはとても大事なことです。

 直接「いじめ」という言葉は使わなくても、思いやりや協力の大切さは教える機会があると思います。それはすべて「いじめは良くない」という考えに繋がります。

 学級開き(年度の最初の学活:入学式や始業式のあとに行う)で担任は色々な話をしますが、思いやりや仲間との協力については、大切にしたいこととして大抵話すと思います。

 「思いやり、協力」については子どもたちが「先生また言ってる」と思うくらい話しましょう。そうした積み重ねが「いじめは良くない」という意識に繋がります。

道徳の授業で教える

 道徳の教科書はどの学年も割と最初の方にいじめに関する資料(読み物教材)が載っています。これはとても良いことです。

 年度の始めは色々とやることがあると思いますが、いじめの資料を使った道徳は後回しにしないでください。年度始めは学級の仲間関係ができ始める時期なので、ここで「いじめは良くない」と教えることは重要です。

 場合によっては(いじめが問題になりそうな学年では)教科書以外の資料も使っていじめの授業をシリーズ化してやってほしいくらいです。

 道徳の授業では、いじめられた子の気持ちを考えさせて「可哀想だ」「これは酷い」「自分がされたら絶対嫌だ」ということを感じさせることがまず大切です。道徳の資料にはいじめられている子の辛さを描いたものが多いので、その気持ちに共感させます。

 クラス全員を「いじめは絶対良くない」という気持ちにさせる!という決意を持って授業をしてください。

 授業の最後の感想で「いじめは良くない」とクラスの子全員が書けば、とりあえずその授業は成功ですが、それでもいじめは起きます。資料の中で起きたことはいじめだとわかっても、実際に自分が経験することがいじめかどうか判断することは案外難しいからです。

 例えばクラスの仲間が他の仲間によくイジられているとします。「嫌じゃないのかな」と思ったとしても、イジられている子が笑っていると「いいのかな」と思ってしまいます。

 内心傷ついているかもしれないと気にはなるけど、実際傷ついているのかいないのかわからないとき、子どもたちはどうしたらいいのかわからなくて放置してしまうのです。

 この場合、いじめを見ている子の立場に立って考えさせると効果があります。「いじめを見た子はどうしたら良かったか」を考えさせると「イジっている子を注意する」「イジられている子の気持ちを聞く」「先生に相談する」といった考えが出てくると思います。

 道徳の授業の良いところは、クラス内で考えが共有されることです。「そういう考えがあるのか。なるほど」「あの子はそういう考えか。見習いたい」と、他の子たちも理解することができます。それを受けて担任が授業のまとめを話します。

 「いじめられる子の気持ちを考えて味方になってあげましょう。いじめかどうか迷うときや、解決できるかどうか不安なときは先生に相談してください」と話せば、いじめかも、と気になったときは先生に相談すればいいということがクラス内で共有されます。

道徳の時間にできなくても他の時間に教える

 道徳の時間にそういう話し合いができなかった場合は、朝や帰りの短学活で担任から話すこともできます。(本当は授業をした方がいいですが、道徳の指導計画や時間の関係でできないこともあるので)

 その場合は担任から「仲間がよくイジられているとしたらみんなはどうする?」と投げかけ、反応があれば言わせて、「イジられている子の気持ちを聞いてあげてほしい。心配だったら先生に相談してほしい」と伝えましょう。

 担任と子どもの関係が悪くなければ相談してくれるはずです。イジりについて相談を受けた場合、それは軽いいじめに当たるものなので、即対応しましょう。(対応のし方は「軽めのいじめへの対処」のところで書きました。)

まとめ

 いじめを予防するためには生徒を啓蒙することが必要です。何を教えるのかまとめます。

①クラスにとって仲間への思いやり、仲間との協力は大事だと教える。

②いじめられる子の気持ちを考えさせ、いじめは絶対良くないことだと教える。

③いじめかもしれないと思ったら先生に相談する、ということを教える。

 できれば道徳の授業で話し合わせることで学ばせたいですが、時間的に難しければ朝や帰りの短学活などで教えましょう。

 生徒同士で解決する力を付けた方が良いのでは?と思った人がいるかもしれませんが、いじめを子ども同士で解決するというのは学級がかなり育っていないと難しいです。

 学級が育つ前にいじめが起きる可能性はありますから、まずは一番取り組みやすくて早く解決できる方法(先生に相談して解決してもらう)を教えましょう。

 これだけやればとりあえず安心かと言うと、まだまだ足りないです。次に「いじめアンケート」について書きます。

いじめ予防(アンケートの活用)

 「いじめアンケート」をどのように活用すればいじめの予防に繋がるかを書きます。

いじめアンケートは負担?

 いじめの問題がクローズアップされるようになってから「いじめアンケート」を定期的に行う学校は多い(というかすべての学校で行っているはず)です。重大ないじめを予防するためにアンケートは大事ですが、これが結構先生たちの負担になっています。

 本音ではアンケートはやめたい。でも調査結果を教育委員会に報告することになっているし、いじめが起きたときアンケートすらやっていないのでは対策不足と言われてしまうので、しかたなくやっている。そういう気持ちの人はいませんか?

 そういう人にこそこの記事を読んでもらいたいです。いじめ対策としてアンケートがいかに重要か、ということや、アンケートを少しでも楽にする方法、いじめ対策としてアンケートを上手く活用する方法を書きます。

アンケートの重要性

 いじめは軽いうちに対処すれば解決は簡単です。しかし、重いいじめに発展したらその対処、指導は複雑になり長期に渡ることになり、先生方の負担は10倍にも100倍にもなります。

 被害生徒1人と加害生徒1人のいじめなら、2人への指導で済みますが、被害生徒1人と加害生徒3人のいじめだと、4人への指導になります。

 加害生徒が複数だと、関与の度合いに差があることも多いので、指導の仕方を変える等の配慮が必要になりますし、いじめの内容もエスカレートしていて問題がより重くなっている可能性も高まります。

 さらに、被害生徒1人に加害生徒が5人以上となると、他にも関わった子はいないのか、見て見ぬふりをした子もいたのでは?ということで学級全体、場合によっては学年全体で聞き取り調査を行い、指導することになります。

 それは先生にとっても子どもたちにとっても、時間的な負担や精神的な負担になることです。いじめは早期発見がとても重要なのです。

 アンケートはいじめを早期発見するために力を発揮します。

アンケートは簡潔であるほど良い

 アンケートは子どもに書かせるのも、担任が見るのも集計するのも負担になりがちです。内容を簡素にして、担任が短時間で目を通せるものにしましょう。

 集計は学年主任か生徒指導担当がやりましょう。そうすれば担任以外もアンケート結果を見て実態を掴むことができますし、担任の負担が減ります。

 教育委員会に報告しやすい形でアンケートを作ろうとする生徒指導担当がいますが、いじめアンケートは子どもが書きやすく担任が確認しやすいものにするべきです。

 教育委員会にどういう形で報告するかは自治体によって違うと思いますが、報告する担当者が上手く考えて、担任や子どもの負担にならないように工夫してほしいです。

 アンケートは無記名でなければ本当のことを書けないとか、学校では周りの子の目が気になって書けないから家で書かせて翌日提出させなさい、と言われることがありますが、そんなことをすると後が大変です。

 無記名で「いじめがあります」と書かれても、解決のしようがないですし、家で書かせると家に忘れてきたと言う子がいて、全員分集めるのに時間がかかってしまいます。第一、そんなふうに隠さないといじめについて書けないとしたら問題のあるクラスです。

 前に述べたように、道徳等で「いじめがあったら先生に相談する」ということがどのクラスでも合意されていれば、いじめアンケートに記名することも、見たことや思ったことを包み隠さないことも当然だということになります。

 アンケートの選択肢が多いと煩雑で、担任が読むのも誰かが集計するのも手間がかかるので、できるだけ簡単にしましょう。

 「①学校にいじめがあると思いますか?ある・ない」だけでいいと思います。

 「ある」に丸を付けた子のために記述欄を設ける、という方法もありますが、そうすると「ある」に丸を付けた子は記述に時間がかかるのが嫌で、深く考えずに「ない」に丸を付けてしまう可能性があります。だから記述欄はなくていいです。

 できれば「②学校は楽しいですか?はい・いいえ」という質問も入れたいです。せっかくアンケートを取るのですから、いじめだけでなく個人の悩みも聞きたいからです。

アンケート後の対処

 アンケートを見たら担任は①で「ある」、②で「いいえ」に丸を付けた子を呼んで話を聞きます。深刻な雰囲気を出さず優しく話を聞きます。

 アンケートでネガティブな方に丸を付けると先生に話を聞いてもらえる、ということが子どもたちに伝わった方がいいのです。それがわかると話を聞いてほしい子は「ある」や「いいえ」に丸を付けますし、話すほどのことはないと思う子は「ない」「はい」に丸を付けるようになります。

 こうして何かあったら先生が話を聞いてくれるということがわかると、アンケートがなくてもいじめのことや悩みごとを相談する雰囲気ができます。

 アンケートは子どもと気軽に話す機会を作ることにも繋がるのです。先生と話したい子が多いと先生は大変ですが、先生と子どもが信頼関係を作ることが子どもの指導には何より大切です。

 気軽に話すことで、授業や行事にも良い影響が必ずありますので、学級作りの一環と捉えられると良いです。

 もしも子どもと話す時間が取れないということなら、学校全体の取り組みとして相談の時間を作りましょう。手順はこうです。

 6時間目を相談の時間にします。担任は廊下に机・椅子を置いて、相談のある子を呼んで話します。それ以外の子は教室内で自習をします。タブレットを使った自習もOKにすると、集中しやすいです。学年のフリーの先生が各教室を回って自習の様子を見守ります。

 私はこのパターンで中3の進路相談(生徒と先生の二者懇談)をした経験もありますが、問題なくできました。

まとめ

 述べてきたことを簡単にまとめます。

①いじめを早期発見するためにアンケートを使う。

②いじめアンケートは簡単なものにする。

③アンケートを子どもと気軽に話す機会にし、いじめの早期発見、指導に繋げる。

 アンケートによって軽いいじめが発見できたら即動いて解決しましょう。いじめも病気と同じで早期発見、早期治療が大事です。軽いいじめのうちに対処できれば大きないじめは起きません。

重大ないじめが起きたときの話

 いじめ予防の方法について述べてきました。いじめは早期発見、早期解決が大事です。

 重大ないじめの事例は私自身も若い頃に経験しました。もう何十年も前のことですが、1つの事例が思い浮かびます。

何年も前にあったいじめの指導

 私は放課後に職員室で明日の授業準備をしていました。職員室に生徒指導担当が現れて「今からA(いじめ被害者の名前)のいじめの指導を行いますから、今いる先生方全員、会議室に来てください」と言いました。

 先生方全員?Aのいじめについては3年生の先生を中心に聞き取りや個別指導を行っていることは聞いていました。今日、親を呼んで謝罪の会をすることも聞いていましたが、3年生職員以外も参加というのは初耳でした。

 1,2年所属で職員室にいた先生たちは戸惑いながらも会議室に向かいました。何か言ったところで生徒指導担当が聞く耳を持たない人だということはみんなわかっていました。

 会議室の後方の指示された席にぞろぞろと座ると、すでに着席していた3年職員や管理職も合わせて教師は20人弱集まっています。

 そこへいじめ被害生徒Aとその親、加害生徒たちとその親が案内されてきて、前方の席に座りました。先に座っていた教師たちの姿は彼らには威圧的に見えたことでしょう。

 生徒指導担当がこれが謝罪の会であることを説明し、いじめの内容(1人の被害生徒に対して4人の加害生徒が、からかったり休み時間にプロレス技をかけたりすることを数か月に渡って行っていた)を説明しました。

 加害生徒が1人ずつ反省と謝罪の言葉を言い、生徒指導担当が彼らを戒める言葉を言って、学校長に話を振ろうとしたとき、被害生徒Aの父親が口を開きました。

 「あなたたちはふざけてやっただけかもしれません。しかし大事な我が子が羽交い締めにされ、かかと落としをされたということを知らされて、私が親としてどれほど悲しく辛かったか、わかってくれますか?またそんなことをしたら絶対に許しませんよ」と言い、父親は涙を流しました。

 加害生徒たちもその親たちも泣いていました。先生たちも涙ぐんでいました。学校長が訓戒を述べて会は終わりました。

 職員室に戻ってから管理職や生徒指導担当は「A君(被害生徒)のお父さんの話は良かった。良い会になった」と満足気でした。私もそれに異論はなかったですが、明日の授業準備の途中だったので焦って仕事をしました。他の先生方も同様に残って仕事の続きをやっていました。

振り返って思うこと

 今から振り返ってもあのいじめの指導は上手くいった方だったと思います。しかしあのとき3年生の先生方は、いじめの全容を聞き取るために多くの時間を使っていました。

 被害生徒だけでなく周りで見ていた生徒にも聞いて、起きたことを正確に把握しようと努めました。その上で加害生徒たちに事実を確認し、認めさせ、反省させ、どのように反省と謝罪を言うか指導しました。その上で被害生徒、加害生徒、双方の親に納得してもらって学校に来てもらったのです。

 これは上手くいった方の事例ですが、揉めてもっと大変だった事例も知っています。

 謝罪の会で加害生徒の親が「学校に責任はないのか!」と言い出して、学校長が「学校の責任は痛感しておりますが、子供たちの成長のために協力をお願いします」と頭を下げたことがありました。

 聞き取りや加害生徒への指導が甘く、加害生徒の親から「うちの子はそんなことはしていないと言っています!」と言い返されて、聞き取りからやり直した事例も知っています。

 いじめで被害生徒が怪我をして、親が賠償金を要求してきたという事例も聞いたことがあります。

 いじめが大きくなってからの指導は軽いいじめとは比べものにならない労力が必要ですし、みんなが辛い思いをします。謝罪の会などやらないに越したことはないのです。

 軽いいじめのうちなら、加害生徒を指導し、親に報告するという形でも納得してもらえます。いじめの予防に取り組んで、大きないじめに発展させないようにしていきましょう。

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